2025年に開催された大阪・関西万博。世界各国が独自の文化と技術を披露するこの国際的な舞台において、ルクセンブルク大公国は「Doki Doki – ときめくルクセンブルク」をテーマに掲げたパビリオンを出展する。その設計・施工に深く関わり、裏方からプロジェクトの前進を支えたのが、フロンティアコンストラクション&パートナーズ(以下、FC&P)である。
単なる建設支援ではなく、文化や言語、制度の違いを乗り越えながら、クライアントの意図を的確に汲み取り、形にしていく役割を担う。ルクセンブルクパビリオンの建設において、FC&Pが担ったのは、そんな“多国籍プロジェクト”ならではのコンストラクション・マネジメントだった。
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きっかけは2021年、ルクセンブルク大使館の空調更新工事だった。FC&Pは、大使館が所在する「ルクセンブルクハウス」全体の管理を担う三菱地所コミュニティ株式会社様からの要請を受けて、CM業務に着手。綿密な工程管理と高度なセキュリティ対応が求められる難易度の高い業務だったが、FC&Pは誠実かつ的確に対応を行い、プロジェクトを成功に導いた。
この対応が当時の在日特命全権大使ピエール・フェリング様の高い評価を受け、やがて本国にFC&Pの名が伝わることになる。
2023年、大阪・関西万博のルクセンブルクパビリオン建設で施工会社の選定が難航する中、フェリング大使は本国政府に「日本の建設工事は日本のCM会社に協力を仰ぐべき」と助言。これがFC&Pとルクセンブルク本国との協業の大きな一歩となった。
この連携の背景には、FC&Pが創業以来20年以上にわたり三菱地所コミュニティ株式会社様と築いてきた堅実な信頼関係がある。ルクセンブルク大使館の工事もその関係性の延長線上に位置づけられるものだった。
その後、ルクセンブルク大公国との初回打合せを経て、わずか2週間ほどで業務委託契約を締結。施工を担う株式会社内藤ハウス様との調整もスムーズに進み、度重なる協議・調整を経て工事請負契約までわずか2ヶ月という短期間での合意に至った。
「我々としては日常の業務の延長でしたが、大使様に推薦されるまでに至ったのは、実直に泥臭く対応してきた結果なのだろうと感じています」と振り返るのは、当プロジェクトを担当した原木氏。この迅速な動きは、これまでの地道な積み重ねがあったからこそ実現した。日々の誠実な仕事が、大規模な国際案件へとつながったといえるだろう。
ルクセンブルクパビリオンの建設プロジェクトには、ルクセンブルクの設計会社STDM様、ドイツの舞台美術会社ジャングルド・ナーブズ様、そして日本の建築設計者である株式会社みかんぐみ様や施工会社の株式会社内藤ハウス様といった、多国籍の専門家が参画した。異なる文化や言語、制度の間にある溝は深く、それが工程にも影響を与えることとなった。
実務を担った西森氏は、「例えば、母国設計の図面が日本の法制度に適合していない。その調整や申請にかなり時間を要しました」と、国際プロジェクトならではの課題を語る。FC&Pは、文書の英訳、会議の通訳、承認プロセスの整理などを担い、施主であるGIE(ルクセンブルク経済利益団体)様および施主代行Blue Dot様と、施工・設計チームの認識齟齬を防ぐ役割を果たした。
「定例会議を日本語で行いながら、後ほど英語で資料を作成し、施主様と共有する。その積み重ねが誤解のない前進につながりました」
時差や祝日の調整も悩ましい課題だった。年末のクリスマスシーズンなど、欧州側の長期休暇が日本の年末進行と重なり、合意形成のテンポを維持する工夫が必要となった。
設計と法令、工程と文化が交差する現場において、その調整力こそが、CM業務の真骨頂であるといえる。
施工が本格化する中で、設計変更や追加工事が相次いだ。限られた期間の中で膨大な見積もりを査定する必要があり、日本の市場価格に基づいた判断が求められる場面も多かった。
「施主であるGIE様は日本の市場感覚に不慣れなため、私たちが間に立って査定することに大きな意味がありました」と語る西森氏。FC&Pは施工者から提示された見積内容を精査し、必要な仕様とコストの妥当性を確認。その過程でVE(バリューエンジニアリング)提案も実施し、品質を維持したまま、全体のコストを大幅に圧縮することに成功した。
「本国の意図を尊重しながら、必要な項目と優先順位を明確にしていく。そのプロセスを日本側で代行することで、設計者や施工者の負担も減らすことができました」
課題が多く混乱していた会議運営の面では、「課題一覧表」の導入が大きな役割を果たした。多言語・多文化の現場において、可視化された課題と進捗が関係者の共通認識を育て、円滑な進行を支えた。
ルクセンブルクパビリオンの設計テーマは「循環型経済」。再利用・再構築可能なモジュール構造を採用し、万博終了後は再活用する計画が組まれている。
「“リサイクルでなくリユース”という発想をもとに、高いデザイン性を発揮している点が印象的でしたね」と西森氏は語る。
この循環型経済の考え方は、単なるコンセプトとして掲げられたのではなく、設計・施工・運営のすべての工程における実現的な指針としてプロジェクトを方向づけていた。FC&Pはその具体化に向けて、多角的な支援を行ってきた。
「まず大きかったのは、その文化的・感情的価値の翻訳です」と西森氏は話す。「ドキドキという日本語特有の感性を、海外の設計者や施主にどう伝えるか。その背景やニュアンスを丁寧に解きほぐし、設計や演出に反映できるようにサポートしました」。
また、循環型経済を体現する建築として来場者に“ときめく体験”を提供するには、施工スケジュールの管理や品質確保、現場での課題解決といったマネジメント業務の質が問われる。「体験の質を下支えすることも、CMの重要な役割だと感じています」と西森氏は語る。
一方で、日本での法的規制、現場条件、工期など、現実的な制約とも常に向き合う必要があった。FC&Pが重視したのは、あくまでもクライアントであるGIE様の意向と信頼を最優先にしながら、設計者や施工者と柔軟に調整し、現場がスムーズに進む道筋を見出していくことだった。その調整力と判断力こそが、CM業務に求められる本質の一つといえる。
万博という限られた期間での展示に終わらせず、その後の活用までを視野に入れた循環型経済のモデル。その実現に向けた陰の支えとして、FC&Pの取り組みが静かに息づいている。
CM業務が担う役割は、単なる調整役にとどまらない。FC&Pは、クライアントの立場に立ちつつ、課題の本質を捉え、最適な解決策を模索し続けてきた。
「工事の遅延リスクを防ぐため、承認期限を明確にし、適切なタイミングでリマインドを行う。そのような積み重ねが“この会社に頼んでよかった”という信頼につながったのだと思います」
GIE関係者から「予定通りに完成できたのはFC&Pのおかげ」との声も届いている。文化や制度の違いを越えて一つの建物をつくりあげる。
その経験が、これからの国際プロジェクトの礎となっていく。
今後はこうした知見を国内外のプロジェクトに活かし、より多様なクライアントにとっての「安心できるパートナー」としての存在感を発揮していく方針だ。現在も、次なる挑戦に向けた準備が着々と進められている。
国際的な舞台で培った経験と信頼は、FC&Pの次なる挑戦へと確実につながっていくだろう。